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11,ファームでの訓練 3


 行軍は3日に1度あると言ったが、ではその間どんな訓練しているかといえば主に駆け足か障害物走である。
駆け足は短パン、タンクトップ、運動靴の時がほとんどだったが、たまにフル装備で走る時もあった。
駆け足の場合上、中、下、といったぐあいに3グループに分かれて走った。
僕は一応『上』グループにいたが2回に1回はグループのスピードについていけなかった。
まーもともと持久走は得意な方でなく、機動隊時代もよく遅れていた。
その時から駆け足苦手だと絶対外人部隊で苦労すると思っていたから毎日自主トレやったのだが、にもかかわらず苦労することになった。
ただ、10キロのオモリを入れたリュックをかついでの駆け足をよくやっていたので、フル装備での駆け足はトップクラスだった。
体力の無い奴は悲惨だった。
サッカドー(リュック)を仲間に持ってもらい、自分は半死にの状態で手をひっぱられて走るというより、ひきずられてる。
後ろからもドンドン押される。
白目むいてる奴もいた。
映画『フルメタル・ジャケット』のデブみたいに。
奴もフル装備全部仲間に持ってもらい、手を引っ張られ白目むいて引きずられていた。
 ここでもマメはもちろん痛かったが、ついていかないとおいてけぼりになりそうでこわかったので必死だった。
なんせ道を走るとは限らなかったので。
森の中とかよく走った。そんなとこで迷子になったら終わりや。
人なんかおらへんのに。
うさぎはおったけどね。

 障害物走は楽しかった。40人中4位だった。
これはどんくさい奴がモロわかる競技だった。
はしご登ったり、ハードルみたいな丸太飛び越えたり、2メートル位の穴からはいあがったり、一本橋(平均台)を渡ったり。
一本橋なんか何べんやっても渡られへん奴おった。
穴からいつまでたっても這い上がられへん奴もおった。
6メートルくらいの縄ばしごがあって、それを登っていって一番上で反対側にまたいで渡ってまた降りるのがあるのだが、ある日フル装備走やった後に障害物走をサッカドー担いだままでやらされた。
その時その縄ばしごの頂上6メートルから落ちた奴がいた。
奴の名はフィッシャー。アホなフランス人で18歳。
フル装備走ですでに死人と化していたフィッシャーはフラフラの状態ではしごを登っていった。
頂上で反対側に渡る際ちゃんと安全な方法をとらなかった奴はリュックの重みでバランスを崩しまっ逆さまに落ちていった。
あっと皆が思った瞬間のことだ。
『ヒューン ドスン』という感じだ。
(今考えると、ちょうど俺が脱走したときみたいな感じだ。こいつは手折ってなかったけど。)
それを見た小隊長のシェフ(軍曹長)がとんできた。
『大丈夫かフィッシャー!』と言うのかと思ったら、そこにいた教官の上等兵をしかりつけ、
『お前が見本見せへんからじゃ!ちゃんとやってみせろ!』
とフィッシャーのことはほったらかし。
さいわいジャリが下にひいてあったのと、サッカドーを担いでいたのがクッションになり怪我はなかった。
信じられへんかった。
それから奴はターミネーターと言われた。
まー俺しか言ってなかったけどね。
そんなアホがいるおかげで教えられたこと普通にやってるだけでよく褒められた。待ち伏せしてる時イタリア人に撮らした。この後捕虜になった。
フランス語での説明を俺がロクに理解できてなかったので心配だったのだろう。
子供褒めるみたいなかんじだ。
『よし、オカノえらいぞ!よくできたぞ!そうだ、がんばったな、いいぞ!!』
こんなかんじ。
まー俺もそんなん言われて調子のって、そうか、俺はえらいんや!とか思ってんやけどね。
アホですわ。

 それにしても外人部隊来てるフランス人てアホが多かった。
フランス語わかってるはずなのに全然逆のことやってたり。
外人部隊の宣誓訓(CODE D’HONNEUR DU LEGIONNAIRE)があって、最初にそれをマル暗記させられる。
 1、我々は名誉・敬意と忠誠心をもってフランス国に奉仕する。
 2、各兵は国籍、宗教、人種など関係なくみな家族である。
みたいなかんじで7まで続く。
それをふざけてかえ歌みたいにしてた奴は軍曹にそれをみつかり、顔面どつかれパンダみたいになり、フル装備で一日中タコツボ掘らされたり、走りまわらされたりしてた。
どうもフランス軍で使いもんにならんかった奴が来てるみたいだ。
ロクな奴がおらんぞ外人部隊!


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